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小さな製造業が挑んだ「手作りDX」〜誰に相談すればいいかも分からなかった会社が、自社開発IoTで未来を切り拓くまで〜

業種:金属加工業

従業員数:約15名

売上高:約3億円

支援者:認定AI・IoTコンサルタント(AIC)

 

■「DXをやりたい。でもどうすれば?」——小さな会社の悩み

この企業は、地域に根ざした小さな製造業。主に同業の地元の中小製造業を取引先とし、工作機械の販売から設置、保守対応までを一貫して担っています。経営者は40代の二代目社長。「これからはデジタル化が必要だ」という強い思いがあり、日々インターネットで“DXツール”や“業務効率化アプリ”を探してはいたものの、次のような壁にぶつかっていました。

 

「調べても月額が高すぎる」

「どれを選べばいいかわからない」

「専門家に相談したいが、誰に頼ればいいかわからない」

 

そんな状況で出会ったのが、認定AI・IoTコンサルタント(AIC)でした。AICは「最新のIT導入」よりもまず、「経営者の想い」を丁寧に聞き取ることからスタートしました。

 

■目指す姿は「効率化」と「持続的な成長」

経営者との対話を重ねる中で、AICは以下の3つの“目指す姿”を明確化しました。

 

1.業務効率化:日報・Excel・口頭確認といったアナログ作業から脱却し、生産性を上げる

2.離職率の低下:社員の負担を減らし、働きやすい環境を整える

3.売上高を毎年5%向上させる:既存顧客への提案力強化と新規案件の開拓余力を確保

この目標設定こそが、DX推進の出発点となりました。

 

■経営課題の可視化:「現場が見えない」という盲点

AICはまず、ヒアリングと現場観察を通じて、以下の課題を洗い出しました。

 

① 業務が効率化できていない

⇒ 手書きの日報や電話での連絡が主流。情報が散在し、社員同士の連携も非効率。

 

② 工作機械の稼働率がわからない

⇒ 機械が動いているかどうかは、作業者が帰宅後に報告するのみ。数値化されたデータはゼロ。

 

③ 現場の正確な状況が不明で、改善もできない

⇒ 納期遅れやトラブルがあっても「誰が何をしていたのか」が記録されていないため原因追及が困難。

 

■AICの支援内容:「手作りDX」という現実的な選択

AICは「高額なITツールではなく、自社の規模に合った現実的なDX」を提案。その実現のために次の5ステップを実施しました。

 

① 経営目標と想いの整理

AICは経営者と一緒に、「なぜDXを進めたいのか」「何を実現したいのか」を明文化。社内説明会でも共有し、全社員が同じ方向を向く土台をつくりました。

 

② 課題抽出と優先順位づけ

「今やるべきこと」「後でやるべきこと」に分類し、まずは稼働状況の見える化から着手。

 

③ 解決策の検討と試作

市販のセンサーではなく、市販の部品で構成した手作りIoTセンサーを自社で開発。Raspberry Piと振動検知センサーを用いて、工作機械の稼働を記録できる装置を開発しました。

 

④ DX実行計画書の作成

いつ・どこに・いくらで・何を導入するかを明記した**「DX実行計画書」**を策定。社内外への説明資料としても活用されました。

 

⑤ PoC(概念実証)の実施

1台の工作機械でセンサーによる稼働監視をテスト実施。振動の有無から稼働/停止をリアルタイムで記録・グラフ化し、効果を検証しました。

 

■導入システムと技術

IoTセンサー Raspberry Pi+加速度センサー+簡易電源装置 稼働/停止の見える化、データ自動収集

Power BI 稼働データをグラフ化し、日別・週別に分析 作業効率・稼働傾向が一目で分かる

Power BIでは、社員にも見やすいグラフ設計を重視。「本当に使える可視化」を実現しました。

 

■成果:変化は“見える化”から始まった

支援から約半年後、以下のような成果が現れ始めました。

稼働率の「見える化」により、作業時間のムダや段取り改善点が明確に

「なぜこの仕事に時間がかかっているのか?」という問いに答えられるように

繁忙時の外注判断が迅速になり、納期遵守率が改善(80%→92%)

作業者の日報記入時間が1人あたり月6時間削減

社員から「自分たちのやっていることがデータになるのが面白い」との声も

 

■AICの存在がもたらした意識の変化

この企業にとって最も大きな成果は、「社内に変化を受け入れる空気」が生まれたことです。AICは、技術を押し付けることなく、経営者と社員の対話を重ね、共に学びながら進めました。その結果、社員からも以下のような声が聞かれました。

「最初は『センサーなんて意味があるの?』と思ったけど、今は必要性がよくわかる」

「グラフを見て、自分たちの作業のムダが見えたときは驚いた」

「AICさんが“わからないことを一緒に考えてくれる人”だったのが安心できた」

 

■まとめ:「ITが高いから無理」と諦めなかったから得られた未来

この事例は、小規模企業でも「手作りDX」で十分な成果を出せることを証明しています。重要なのは高額なツールではなく、「自社に合った形で」「仲間と一緒に」進めること。そして、その道筋を示し、伴走する専門家——それが認定AI・IoTコンサルタント(AIC)の存在意義です。

 

「DXは自分たちには無理」と思っていた企業が、今や“データで考える文化”を持ち始めています。その第一歩を踏み出す勇気と、それを支える専門的な知見の両方がそろえば、どんな企業でも変わることができるのです。